体幹トレーニングの疑問の芽生え
私はリハビリをしていたころ、体幹の重要性について、耳にタコができるくらい勉強しました。また、患者様の問題点について考える時に多くのケースで、体幹が弱いことが、問題点の一つとして数えられることが多く、毎回、毎回、「手が動きにくいのは、体幹が悪いから」「足が悪いのは。体幹が悪いから」などと言われ、体幹トレーニングは「体の動きの万能薬か!!!」とツッコミたくなるようになり、次第に本当に患者様の不調の原因は本当に体幹のせいなのかと疑問を持つようになりました。
そして、体幹の弱い人はどこにいるかを考えると、「ぽっこりお腹の原因は体幹が弱いから。」とか言われるように、体幹が弱い人は、どこも痛くない、動きづらくもない普通の人にも体幹の弱い人はいて、さらに「このアスリート(痛みの有無は別として)は体幹が弱いんだよね」などという言葉も聞いたことがあり、これらのように障害や運動の有無に関わらず、程度の差はあれ、体幹が弱い人はどこでもいます。
つまり、体幹が弱い人は、一部の限られた人のものではないということです。
私は、リハビリで働いていたときに、患者様の体を検査する際は、オンリーワンのこの人だけが動きづらい原因、痛みを訴える原因は何かを考えるように常に考えていました。だから、患者様の痛みや動きの悪さの原因を、体幹の弱さとするのは、原因がオンリーワンではない場合が多かったので、できるだけ避けていました。
体幹トレーニングが必要なとき
以上のように私は体幹トレーニングに関して疑問があるので苦手意識がありますが、より健康に、より競技が強くなるために、体幹のトレーニングを患者様に進める場合があります。
例えば、腰痛で明らかに腹圧が低下が原因で痛みを誘発している場合は、後述するドローインと言われる体操が有効であることは広く知られています。また、そもそもの姿勢の保持が困難で、グラグラで悪い姿勢を矯正をする場合にも、体幹のトレーニングが重要です。運動では、体幹はたくさん筋肉があるので鍛えることで基礎代謝を上げることでダイエットにも効果的です。またラグビーでスクラムを組むときなど、とにかくがっちり体幹を固定する必要があるときは、体幹のトレーニングは必要だと思います。
(現在は、基本的に運動になると、体幹を固定的に使うよりは、ダイナミックに動かしながら使う場合が多いので、単純に動かないで体幹を鍛えるトレーニングだと、ダイナミックな動きに対応する筋肉を作るのが難しいため、単純な体幹トレーニングを疑問視する考えがあり、動きをよくするために体幹トレーニングをする場合は、トレーニングメニューをかなり練らないといけないと思います。)
これらは体幹トレーニングが必要な人の氷山の一角なので、体幹のトレーニングはかなり有効な場合が絶対あります。よって、体幹トレーニングが苦手な私でも、体幹のトレーニングを薦める場合もあります。
体幹トレーニングの歴史と流行について
体幹のトレーニングが注目され始めたのは、諸説ありますが歴史的には、「リハビリ業界の父」と呼ばれたチェコのヤンダ博士(1923-2002)が提唱したのが始まりだと言われています。この方はヤンダアプローチ(姿勢や運動パターンなど全身的な評価を行い、中枢神経系と筋骨格系からアプローチしていく治療方法)と言われる技術を作った方で、その中の腰痛のアプローチの一つとして体幹トレーニングが行われていたようです。そして時代背景として、1990年代のHodgesらの研究で、手や足を動かした時に先行して体幹の筋肉の反応があることがわかり、動きの土台として体幹の重要性が注目されつつあったのも影響してたと考えられます。
そして、体幹トレーニングが日本で一躍有名になったのは、2014年3月にサッカーで有名な長友選手が、自身のトレーナーである木場克己先生が考案された体幹トレーニングを紹介したことで、大きく人気がでました。
筋トレの流行として、体幹トレーニングは、2007年〜2010年は世界でTOP5に入るほど人気でしたが、2010年以降、2016年には19位に落ち、2017年にはトップ 20位圏外となり、やや人気が低下してきていいます。ちなみに、最新の2022年度のフィットネストレンド一位は、ウェアラブルテクノロジー(スマートウオッチ、アクセサリー、衣服、タトゥーなどに電子端末を埋め込んで、それを使って運動する)でした。
このように現在は、体幹トレーニングの人気はやや落ちているようにみえます。しかし、20位以内のフィットネストレンドを見ると、トレーニングの中にホームエクササイズジムや、自重トレーニング、ヨガなどが入っており、その中には体幹トレーニングが入っている可能性は少なくないので、体幹トレーニングはこれらのようなトレーニングの中の一部として組み込まれているように感じました。
おすすめの体幹トレーニング
これまで体幹トレーニングについて、いろいろ述べましたが、現在は体の痛みについて考えることが多いので、腰痛に効く体幹のトレーニングを紹介します。
今回紹介するトレーニングはドローインで、このトレーニングは、簡単に説明するとお腹を膨らませて、お腹の筋肉を鍛える体操です。
この体操の良さは3つあります。一つは、大きく動きを必要としないので動けなくてもできること、二つは、腰痛予防に重要な腹圧を上げる腹横筋を鍛えられること、三つは、ドローインをすることで腰痛が良くなったという研究(詳しいことは割愛しますが、海外の51名のアスリートに対して行った研究や、日本のフィットネス参加者41名に行った研究など)もあるからです。
やり方は諸説ありますが、呼吸とともに行いしっかりお腹に力が入れば良いか思います。 具体的な方法は、
- 上を向いて寝て、膝を曲げます。その時、お腹に触れているとより筋肉の意識がしやすくなり、力が入りやすくなります。
- 腹式呼吸を何度か繰り返す。
- 息を吐きながら、お腹を大きく凹ませます。その時、骨盤が後に倒れないように意識してください。お腹の力を意識しやすくするために、腰の背骨の下にタオルなどを入れておくのも良いです。
- 息を吐き切ってお腹を最大まで凹ませたら、お腹の筋肉が硬いのが硬くなっているのを確認します。
- そのまま浅い呼吸を繰り返し、お腹に力を入れた状態を、30秒程度キープします。